この記事では、黒澤明監督の第23作品目の映画『赤ひげ』のあらすじと映画の解説をご紹介します。
1965年に公開された『赤ひげ』。
黒澤映画最後の白黒映画であると同時に、黒澤・三船コンビ最後の作品です。
それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『赤ひげ』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。
『赤ひげ』あらすじ
3年間、長崎で蘭学を学び、幕府の御番医となることを夢見て江戸へ戻った青年、保本登(加山雄三)。
父の命により、貧民のための診療所小石川療養所へ立ち寄るのだが、思いもよらず、この療養所で働くことを言い渡される。
さらに、療養所の所長『赤ひげ』こと新出去定(三船敏郎)からは、長崎で学んだ蘭学の資料を提出するよう言われる。
まさかの事態に憤慨し、反発する保本。
しかし、やがて赤ひげの豊富な知識と経験、深い愛情に触れることで、自身の未熟さを恥じ、思いを新たにして真の医療者として成長していく。
『赤ひげ』解説
1965年春に公開された『赤ひげ診療譚』。
原作は時代小説家として知られる山本周五郎の『赤ひげ診療譚』。
庶民の暮らしを描いた山本作品の中でも傑作と名高い小説です。
黒澤監督にとっては23本目の監督作品となります。
黒澤・三船コンビ最後の作品でもありました。
時は江戸時代。
貧しい病人たちのために設立された無料の診療所『小石川療養所』が舞台です。
享保の改革によって作られたこの療養所の所長を務めるのが、三船敏郎さん演じる赤ひげこと新出去定。
主演はこの三船さんだが、ストーリーは新参の弟子・保本登の目線で進んでいきます。
原作はオムニバス形式なっているのですが、黒澤監督はそれらのエピソードを巧みに組み合わせて、一つの群像劇に仕上げています。
漫画界の巨匠・手塚治虫さんのほか、赤塚不二夫さん、石之森章太郎さんなど、戦後日本に大きな影響を与えた作家たちの中には、黒澤明監督の熱狂的ファンが多い。
劇画に影響を与えたと言われる『用心棒』をはじめ、黒澤作品の脚本、カメラワークは一流と言われる芸術家にさえも憧れを抱かせました。
本作品でも、現代漫画の中でよく目にするシーンは多い。
二木てるみさん演じるおとよが壁を凝視する場面では、彼女の目にだけスポットがあたるのですが、このような印象的な技法はその後も頻繁に使われてきました。
白黒映画であるにも関わらず、見る者にドラマチックなショックを与えるのは、黒澤監督の凄みと言えるでしょう。
主人公の三船敏郎さんは、本当にひげを赤く染めたそうです。
色彩へのこだわりは徹底している黒澤明監督は女が描けないと言う評論家もいますが、この映画に出てくる女性たちは、皆人間味に溢れています。
桑野みゆきさんや根岸明美さん、二木てるみさんなど、それぞれの役どころに釘付けになってしまうほどです。
加山雄三さんが演じる保本登の母親役には、あの田中絹代さんがキャスティングされているのも注目です。
これが初の黒澤監督作品出演となっています。
『赤ひげ』感想
三時間という長尺ながら、飽きさせない作品。
黒澤映画では常連の藤原釜足さん演じる末期ガンの老人や、家族のために盗みを繰り返す少年など、悲壮感漂うエピソードが散りばめていながら、なお生きることの美しさや尊さを感じさせてくれます。
三船敏郎さんの貫禄の演技も圧巻です。
特に印象的なのは、やはり二木てるみさん演じるおと。
心に闇を抱え、固く心を閉ざしていたおとよが少しづつ心を開いていく過程は素晴らしい。
また、長坊役の頭師佳孝の演技も忘れられない。
おとよと長坊が心を通わせるシーンには、熱いものがこみ上げてきます。
物語の冒頭では、療養所になじめず自暴自棄になっていた保本が、最後には金や名誉を捨て、療養所に留まることを決意する。
『力ずくでも残ります』というセリフは清々しさをおぼえます。
次の『赤ひげ』として弱い人々を助けていく彼の姿が想像できるようです。
しかし、赤ひげの人となりに、少しでも近づきたいと思ったのは、きっと保本だけではないでしょう。
『赤ひげ』まとめ
黒澤明監督の第23作品目の映画『赤ひげ』のあらすじと映画の解説をご紹介しました。
黒澤映画最後の白黒映画であると同時に、黒澤・三船コンビ最後の作品となった『赤ひげ』。
白黒映画であるがゆえに黒澤監督の凄みを実感できるこの作品は必見です。
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