この記事では、黒澤明監督の第11作品目の映画『白痴』 のあらすじと映画の解説をご紹介します。
1951年に公開された『白痴』。
黒澤明監督が悩みに悩んで作り上げた魂の名作として知られています。
それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『白痴』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。
『白痴』あらすじ
戦後の沖縄、主人公の亀田欽二は無実の罪で処刑されかけたことがきっかけで白痴を患ってしまいます。
長い間病院生活を送っていた彼だったのですが、あることがきっかけで沖縄とは真反対の北海道、札幌へ行くことに。
そんな彼はある日、那須妙子という女性に一目惚れをしてしまいます。
しかし実はその妙子は金持ちの妾である高級娼婦であったのです。
その後、欽二は妙子の家のパーティに参加することになって妙子の心に自分と似た部分を見つけたり、妙子とは別の大野綾子という娘と知り合ったりと次第にストーリーは動きはじめます。
綺麗で優しい心を持つ欽二はしだいにこの2人の女性に愛されて、妙子と綾子の女の戦い、そして濃厚な恋愛ドラマが展開されていきます。
『白痴』解説
本作の見どころは、なんといってもドストエフスキーの名作文学を黒澤明さんがどう作品に落とし込むかというところにあります。
彼は今回、原作ではロシアだった舞台を北海道の札幌に移します。
彼がシェイクスピアの「マクベス」を原作として監督した「蜘蛛巣城」では舞台はイングランドからガラッと日本の戦国時代に移し替えられていました。
今作は原作のロシアとなるべく似た北海道が選ばれているものの日本を舞台としたオリジナルの『白痴』を観ることができます。
どんな原作を下敷きにしても自分なりの信念を道しるべにして自分の色を出してくる黒澤明さんの手腕はさすがです。
人物の内面を描写するために顔のアップ撮影ではまばたきを禁止するなどの完璧主義な演技指導は本作でも冴えわたっています。
そして監督の美的センスから撮影される美しい白黒の雪のシーン、全編に漂う新劇を思い出させる演出、室内撮影の大胆な切り返しは時代劇を得意とした彼の作品の他に類をみない独特の雰囲気を匂わせていて、どこか抽象的で芸術性さえ感じさせてくれます。
ちなみに本作は製作会社の意向から大幅にストーリーがカットされたという経緯があります。
完璧主義者の黒澤明さんは当然これを不服としたのですが、最終的に監督側が折れて泣く泣くカットしたストーリーを字幕で説明するという黒澤作品らしからぬ屈辱的な演出をすることになったのです。
4時間以上あったという幻のフィルムは今では誰にも観ることができません。
『白痴』感想
やはりこの作品、『白痴』が原作であるところが良くも悪くも作品全体に大きく影響を与えているように思えてしまいます。
中学時代から大のドストエフスキー愛読家であった黒澤明さん。
「昔からずっと映画化したかった作品だった」と語ったこともあり、撮影のずいぶん前から構想があたたまっていたのではないでしょうか。
今作は「マクベス」を戦国時代の日本に思い切って舞台を変えた時ほどダイナミックなアレンジは加えられていないように思えます。
おそらく監督の中でドストエフスキーに対するリスペクトと、なるべくそのまま映画化したいという気持ちの葛藤があったのではないかなと私は思いました。
舞台も、もともとロシアであったものを日本で1番ロシアに近い都道府県である北海道にした事からもそれは伺えます。
ちなみに監督は撮影のために7回以上原作を読みなおし撮影に挑むも、思ったようにいかずに精神的な重圧からナイフで自分の腕を傷つけようとさえしたそうです。
とはいえ、やはり人は追い詰められ葛藤するととんでもないパワーを発揮するのものです。
黒澤明監督は敬愛する原作へのリスペクト、そして過酷な撮影と人間関係に追い詰められて本作を撮りきりましたが、それだけの事もあってか彼自身の執念が乗り移ったようなカットを随所に感じられます。
昔から誰よりも原作の『白痴』を愛し、影響されてきた監督だからこそ、絶対にこの作品を中途半端なものにはできないと思ったのでしょう。
『白痴』まとめ
黒澤明監督の第11作品目の映画『白痴』 のあらすじと映画の解説をご紹介しました。
三角関係の恋愛ドラマ、そしてそのドラマをめぐる登場人物たちの細かな心理描写、女と女の戦い。
天才黒澤明監督が悩み抜いて完成させた本作は、見どころ満載の名作になっています。
黒澤明監督が自作の中で最も好きだと語っていた『白痴』 。
ご覧になってみてはいかがでしょうか?
コメント