この記事では、黒澤明監督の第5作品目の映画『素晴らしき日曜日』のあらすじと映画の解説をご紹介します。
1947年に公開された『素晴らしき日曜日』。
まだ戦争の傷跡が残る日本の実情をリ圧に描いた作品です。
それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『素晴らしき日曜日』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。
『素晴らしき日曜日』のあらすじ
時は戦後、まだ悲惨な跡が残っていた時代の東京の物語です。
有り金が少ない上、住宅難で一緒に住めず、週の1日日曜にだけ会えることを楽しみに日々を過ごしている一組の貧しいカップルがいました。
友人の家に住んでいる雄造と姉の家で暮らしている昌子という二人の男女のお話です。
一緒に住めない彼らがだだひとつ楽しむことができる日曜日でしたが、順風満帆には行かず幸せなだけではやりきれない日々が二人を襲います。
うまく行かないことが続いていく日々の中でそんな生活を過ごす度にやるせない気分になってしまう男と、どんな状況でも明るく乗り越えようとする女。
物語の最後には音楽堂のステージで指揮をする雄造でしたが、そこでもいくら指揮をしても音は鳴ってくれません。
昌子はそんな彼を見て、拍手を観客に求めます。
辛い日々を明るく支え、笑顔を絶やさず乗り越えようとしていくのです。
『素晴らしき日曜日』の解説
この物語が作られた背景として黒澤さんと同級生の植草圭之助さんが偶然に再会したことをきっかけに作品を作ることとなったことにあります。
黒澤さんと植草さんは「素晴らしき哉人生」にヒントを得てそこから作品を作り始めます。
元となったお話は住宅難で結婚できない二人の男女の物語でした。
彼らは一緒に暮らすために空き地に芋を育て始めました。
やがて収穫の時期になったところでせっかくの作物を盗まれてしまいます。
小さな住宅を立てようとしていた青年は今までの努力が泡となり悲しみに暮れますが、恋人は彼を鼓舞し、立ち直らせてまた頑張っていくというお話です。
この話を元に新たな物語が作成されました。
ストーリーの終盤では、ヒロインがスクリーンの中からのスクリーンの外の客に向かって拍手を求めるという場面がありました。
自国では流行らなかったものの、海外では観客からの盛大な拍手を送られたということです。
ほとんどの撮影は街中で行われましたが、衣装の服装と似た恋人たちがたくさん歩いており、そのせいで街の中で主人公を見失ってしまい、撮影を中断してしまう事もあったそうです。
『素晴らしき日曜日』の感想
戦後すぐの1947年に作られた作品のため、街の焼け跡や荒廃した建物、時代の風景がとてもリアルで現実的に表現されていて、今見てみると写実的な表現に余計にとても惹かれるものがありました。
また、この作品は黒澤さんの他のものではあまりみることのできない、純愛の物語です。
今までに力強く迫力のある作品が多く、そのようなイメージがとても強い監督ということもあり、始めの頃にはこのような純粋な恋愛の作品を作っていたことにびっくりしました。
役者さんの演技も素晴らしく、特に落ち込んで嘆く彼を明るく勇気付け、笑顔を失わないヒロインを熱演した中北千枝子さんの名演は実物でした。
主人公を健気に支え、とても可愛らしいチャーミングな演技が特徴的でした。
そのほかの作品では映画の中で気の強い女性が印象に残る事が多いのですが、中北さんのような健気なヒロインがいい意味で目立つのは珍しいと感じました。
この作品の一番の見所は中盤の二人で会場に走って向かう場面ではないかと思います。
お金がなくても愛があれば乗り越えられるということを体現してくれるような映画です。
最後の場面の映画の中からスクリーンの外の観客に動きを催促するところでは思わず小さく手を動かしてしまいましたが、もし機会があれば家の小さなテレビではなく、この有名な場面はシアターの大画面で直接体験して見たいものです。
『素晴らしき日曜日』まとめ
黒澤明監督の第5作品目の映画『素晴らしき日曜日』のあらすじと映画の解説をご紹介しました。
戦後の傷跡残る東京で健気に支え合う若いカップルを描いた『素晴らしき日曜日』。
この映画の価値は、なんと言っても黒澤明監督作品には珍しい純愛ドラマであること。
『七人の侍』『乱』といった黒澤監督の代表作しか観たことの無い方にとっては驚きの1本になるかも知れませんよ。
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